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東京・参宮橋に位置する、ちょうどいいアート専門店

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https://picaresquejpn.com/

 

 

※武盾一郎の最新情報は下記リンク先よりご確認いただけます。

https://picaresquejpn.com/artist/takejunichiro/

武盾一郎

1月2日生まれ

東京都千代田区出身

 

〜作家コメント〜

天地を決めず予感をたよりに線を紡いで描きます。音楽を内包している楽譜のような絵でありたいことから『線譜』と名付けています。

 

25歳より絵を描き始める。1995年8月〜98年2月 新宿西口地下道野宿者コミュニティ「段ボール村」の段ボールハウスに絵を描き続ける。1997年 東京大学駒場寮で『蟻天国』を発足、ギャラリー『OBSCURE』、『ゼロバー』などで活動。1998年 神戸氏須磨区下中島公園被災地非公認テント村「しんげんち」に暮らしながら制作活動。2007年11月アートの名に於ける野宿者排除を渋谷の路上で考える「246表現者会議」発起人。2010年7月ギャラリーTENにて初個展『Real FantASIA』2012年2月自宅アトリエ『世界征服研究所』発足、自宅ギャラリー『秘密基地』にて作人を観てもらう「個(別)展」をゆるく継続開催。

盾一郎さん インタビュー
2015.10
 「線譜を描く画家です。」と、まず自己紹介してくださった盾一郎さん。さんの作品といえば、ボールペンで描く細やかな線画が特徴で、Picaresqueでは珍しく、モノクロの作品を多く制作しています。
 「線譜」というのは、簡単にいうと、直感的な楽譜のことです。よくある五本線の楽譜のような、メロディを記号で説明する為のものではなく、線自体が奏で、紙の上に「見える音」として存在するもの、というイメージです。音楽に使われる用語を使って、敢えて絵ではなく「線譜を描いている」と言うさんには、現代のアートに対しての強い想いがあります。
 みなさんは「現代美術」や「コンテンポラリーアート」と聞くとどんなイメージがありますか。私はというと、少し難解だったり抽象的なものを何となく想像してしまいがちです。(本当は色んな作品・楽しみ方があるのですが。)実はさんは、いまを生きる作家として、そんな鑑賞者のリアクションに共感している一人です。アートには、美術史の文脈を読み取り再構築する事によって評価される、とても戦略的な作品も存在します。ですが、そういう作品は、前提知識がないと時として理解しにくいものでもあります。そういう類のアートに対して、「文脈を踏襲する流れはもういい」「コンセプチュアルから、感じるものへ行かなきゃ」と話すさん。ずばり、彼にとって「線譜」の意味するものとは、音楽が多様なひと・場所に対して発揮する「感じてしまう作用」「心を揺らしてしまう魔法」をアートによって実現したい、という想いです。
 さんは作家として、「存在って何だ」ということを常に考えているといいます。制作中には宇宙物理学の講座を聞きながら、自分の作品と量子力学の結びつきについて考えたりもするのだそうです。
 自動筆記のような形で、無心になって線譜を描き続ける中で浮き出てくるさんの世界と、小さなちいさな”紐”が震える事で成り立っている私たちの宇宙の世界。その二つの世界を重ねたりしながら、さんの作品は「存在ってなんだ」という極めて根源的な問いに向かって描き進められています。その緻密さ故に、問いへの答えを作品が説明しているようにも見えます。ですが、作品に音楽のような「感じてしまう作用」を求めるさんは、「感覚的にこの世が何でできているのか突き止めようとしてる」という風にも話してくれました。
 さんのお話を聞いていて面白かったのは、「存在」や「感動」といった哲学的で根源的なキーワードが、冷静な視点で語られていた事です。さんは、美術史や科学などの知識を自身で取り込み、それを作品にしていく過程で、問いと向き合っています。もちろん、本当は問いについて考える時、自身の中に深い感情が渦巻いているのかも知れません。でも、それを説明する時に、自身の内省による感情的な話はほとんどありませんでした。そういう意味で、さんはとても冷静に、人間の根源的な謎について、把握しようとしているといえます。ただ、さんの作品の一番の目的は、問いに対する答えを提示する事ではありません。線画を通して、ひとの感動を誘うことこそ、さんの目指す姿です。お話を通して感じたのは、そんなさんには、「大きな問いを冷静に把握しようとする姿」と、「説明のできない感動を求める姿」の二つが交差していて、それが作品をどこかミステリアスにしているのでは、という事でした。

 

 どこか説明的でいて、実は偶然を楽しんでいるような、微妙なバランスを行き来する線譜の世界。そこには、「アート」と「存在」に真剣に向き合う、さんの思考が詰まっています。そして、さんの線譜の探求はこれからも続きます。

 

 

桑間千里